一週間ほどブログをご無沙汰していました。お久しぶりでございます。
実は、先週末、私は久々に東京に行ってまいりました。
東京上野にある東京国立博物館で開催中の『顔真卿 王羲之を超えた名筆』展を見るためです。(2019年1月16日(水)~2月24(日)まで開催)
実は、私は子供の頃から書道を習っていて、高校時代は書道部でした。大学も書道が学べる学科を選んで、大学4年間どっぷり書道の勉強をし、またクラブ活動も書道部に所属して、大きな展覧会に出品する作品の制作にいつも励んでいました。こうして制作活動に没頭し、将来は高校の書道の先生になりたかったのですが、私の故郷の県では、高校の書道教諭の採用が無かったため、中学校国語教諭の試験を受け、そのまま国語の先生になりました。
その後は、学校の仕事があまりに忙しすぎて、とても作品を作っていられるような状況では無くなり、書家の道は諦め、学校教諭としての道を進んだのです。(結局、学校の先生の道も、結婚後に諸事情で諦めざるを得なくなりましたが・・・汗)
そんな私でしたが、高校時代の書道部の友人が、「東京で顔真卿展をやっているよ。」と教えてくれたのです。
思えば、高校時代、私は顔真卿の墨がよくのった、あのどっぷりとしたおおらかな書体に心引かれて、ずっと臨書していました。そんな私ですら忘れていたことを、この友人はしっかり覚えてくれていて、私にそっと教えてくれた・・・と言う訳です。
しかも、今回の顔真卿展では、台北の故宮博物館所有の、あの有名な『祭姪文稿』が特別展示されるとのこと・・・。
台湾でもなかなか展示されることが無いという幻の名筆で、歴代の皇帝が秘宝として所有してきたという超一級品の展示物です。今回が日本初公開です。
この祭姪文稿は、唐の時代758年に顔真卿によって書かれたもので、安史の乱によって顔一族の多くを戦いで亡くしたのですが、その中でも顔真卿の従兄の子である顔季明の亡骸を目の前にして、彼を供養するために書かれた文章の草稿が、この「祭姪文稿」なのです。草案「下書き」ということもあり、筆に私的な感情が如実に表われていて、顔真卿の生々しい息づかいを感じさせます。書き出しは非常に平静に書かれているものの、徐々に感情が高ぶり、慟哭にも似た感情が溢れだす様がその激しい筆跡で感じ取れるという、情感あふれた作品なのです。
この作品は、歴代の皇帝が自分のコレクションとして大事に所有し、それを表する落款印や記がたくさん付け加えられています。
中国では、自分が所有している書作品には、所有者の証として自分の篆刻印を押す風習があり、この篆刻印の数や種類(著名人や高貴な人々の印)によって、さらに作品に箔がつきます。ちなみに、この「祭姪文稿」の場合は、中国の歴代皇帝が所有していて「至宝」として大切に所蔵されていたので、最高級品となるわけです。
そんな超目玉の作品が、台湾ではなくこの日本で見ることが出来る・・・。これはなかなか滅多にない貴重な機会です。
そこで、私は、東京に行って久しぶりに顔真卿の書に触れてみることにしました。
前日の夕方に東京に到着し、次の日の日曜日、朝9時30分頃に上野駅に到着。そのまま上野公園に向かいました。
のんびり構えて行ったら、なんだか朝からすごい人です(汗)。
皆さん同じ方向へと歩いて行くのを見て「これはやばいかも・・・」と思い、公園内に入ってすぐ見つけたチケット売り場で「顔真卿展」のチケットを買っておくことにしました。ついでに公園内のトイレに入って、トイレも済ませておきました。(←虫の知らせ)
こうして準備万端にして国立博物館へ行くと、嫌な予感通り(汗)、ものすごい人でした。建物に入る前に、もうずら~と長蛇の列です。
最後尾に並んで30分以上待ちました。
周りは中国人7割、日本人3割・・・という感じです。圧倒的に中国からのお客さんが多かったです。
かなり待って、ようやくここまで↑来ました。(これでも列の1/3です)
先にトイレを済ませておいて良かった・・・と心から思いました、自分の直感に感謝(笑)。
じりじりと前へ進み、ようやく館内に入ってエスカレーターで二階に上がると、また長蛇の列が出来ていました。なんと、「祭姪文稿」だけを見るための列なんだそうで、最後尾で70分待ち。どうしようか・・・と一瞬悩みましたが、「せっかく来たんだから」と並んで待つことにしました。
並んで待っている間、近くを通ったスタッフの人に聞いてみたところ、「昨日(前日の土曜日)は最高で130分待ちでしたよ。70分待ちなら良い方です。まだ体力があるうちに、早めに列に並んで見ておくことをオススメします。」と仰いました。
なるほど・・・。確かになぁ~。振り返って見ると、私の後ろには(いつの間にか)たくさんに人が集まり、更に長い列がぞろぞろとできていました。ここで列から離脱するのは非常に勿体ないかも・・・(汗)。
列はじりじりと前へ動いています。まさに牛歩という感じで、なんだか年末年始の高速道路の渋滞を彷彿させますが、一応、少しずつ動いていることだし「まっ頑張るか・・・」と腹をくくって潔く待つことにしました。
列は少しずつ前へ進み、ようやく展示室の中に入りました。
中に入ると、壁面や天井にいろいろな展示物があり、それを見ているだけで気が紛れます。展示室に入っても相変わらず列はスゴい混雑ぶりで、ディズニーランドのアトラクション並の行列になっています(汗)。
そんななか、やはり周囲を見渡すと、日本人3割・中国人7割・・・という感じです。でも、ここに並んでいる中国人の皆さんは、どことなく文化人的な雰囲気で、とても品良く感じられました。小さな子供さんを連れたご家族もいましたが、小学生くらいの子供たちも、非常にお行儀良く列に並んでいます。
所々で展示されている「祭姪文稿」の文面の一部(抜粋されたもの)を小さな声で読んでいるのが聞こえてきて(もちろん中国語)、なんとも不思議な気分になりました。
中国の古典を、中国語で聞くという、この不思議さ・・・。
中国語特有のあのイントネーションと発音が、耳と心に心地よく響くのです。
私の前にいた日本人のおばさんグループ(←書道教室のお友達グループっぽい)が「いいわね~。これが読めるなんて~!すごく羨ましいわ~。」と、ため息をついて話していました。
ホント「私も羨ましいわ~」と思いました。
このとき、自分の心の中に少しずつ蓄積されてきた「最近の中国人観光客への嫌悪感」が薄れていき(←ゴメンナサイ💦。でも一時、酷かったですもんね・・・汗)、 同じ書を愛する仲間としてリスペクトする気持ちが沸々と芽生えたのでした。何とも不思議な敬愛心・・・。この同じ空間でこうして同じ列に並んでいる人々とは、「顔真卿」という偉大な書家を介した偶然の出会いなのですが、それでも、この展示会が無ければ、出会うことも、すれ違う事も全く無かったご縁です。これって顔真卿先生が作ってくださった日中の橋渡し的な機会なのかもしれないな・・・・・と、ふとそんなことを感じたのでした。
こうして自分の心の微妙な変化を実感しつつ、列は少しずつ前へ前へと動いていきました。そして私もじわじわと本物の「祭姪文稿」へと近づいていったのでした。ワクワク☆ドキドキです。
つづく